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2009.05.20 (シャニム27号掲載)

福島敦子のアントレプレナー対談 No.27

スピーシーズ◎春日知昭社長

ロボットの本質は「歩くパソコン」
AIBO開発メンバーの
新たな挑戦


スピーシーズ(株)〔東京都渋谷区〕

2001年、AIBO開発の一員だった春日知昭社長がソニーを退社して設立。ロボット技術とIT技術の融合によるインターネットロボットの市場導入を目指している。03年に15台のAIBOを使った「AIBOミュージカル」を東京・お台場で実施し注目を集める。04年に本格的なインターネットロボット「SPC-001」の出荷を開始。以後、「SPC-002」(05年)、「SPC-003」(05年)、「SPC-101」(06年)など次々とニューモデルを発売。06年に累計出荷台数が100台に達し、08年に200台を突破した。また同年にはロボット放送を発表。09年は初の家庭用ロボットの発売を計画している。
http://vision.speecys.com/

 

感情移入できるIT機器

 福島 春日社長はロボットを「歩くパソコン」と表現されています。具体的にどんなロボットを目指していらっしゃるのですか。
 春日 例えば小型のロボットが家にくるとするじゃないですか。そうしたら、この子に何をしてもらったらうれしいか。そういうことって多分、誰も想像したことがないと思うんですよ。
 しゃべれます、踊れます、歌います、という子が我が家にきて、これから何かを楽しませてくれますといったときに、では、何をしてくれたら楽しいかということは、みんなまだ分からないと思うんですね。それは馬車の時代の人に、自動車の説明をするようなものなんです。
 例えばロボットとパソコンの決定的な違いって、福島さんは何だと思いますか。もちろん動くっていうのもありますけれども。

 

福島敦子

 福島 形がフレンドリーなことでしょうか。
 春日 それだと思うんですよ。ロボットも内部にCPUやメモリーが入っていて、無線LAN が付いていて、IPアドレスも持っている。ほとんどパソコンと一緒なんです。違いは何かといったら、この子には手足が付いている。そして、パソコンにはキーボードとディスプレイが付いている。それだけなんですね。
 ところがロボットには手足があることで、これをお友達と感じられると思うんですよ。お友達と感じるということは親近感が持てる。感情移入できるんです。

 僕はソニー時代に、初めてAIBOを見て思ったんですけれど、物なのに生命感がある。感情移入ができるんですよ。ロボットは人間が初めて手にした「感情移入のできる機械」なんです。思わず○○ちゃんって話しかけたり、慰めてほしいと思ったり、そういう心のやりとりのできる機械が、初めて手に入ったんですね。
 これをどう活かしていくかということは、まだまだ考えなきゃいけないと思いますけど。1つ確かなことは、今まで無機質だった情報を、感情移入のできる機械が、もっと感覚的な情報に変えてくれることだと思うんです。

 福島 一般にロボットへの期待といいますと、介護だったり、家事のサポートだったり。春日社長も、そういうロボットを開発していらっしゃるのかと思ったんですけれども、お話をうかがうと、まったく違う形ですね。
 春日 はい、違います。もちろん介護や家事のロボットは素晴らしいし、それはそれでやるべきことだと思っています。
 でも、それとは全然別に、僕はロボットをただのコンピュータだと思っているんです。コンピュータが動くようになった。それだけでしょうって。「動くコンピュータ」という新分野が増えただけなんですよ。なのにロボットといったとたん、ものすごいことを期待してしまう。だからロボット産業が、おかしくなっていると思うんですね。


AIBOで培ったロボット哲学

 福島 もともとはソニーのご出身で、AIBOの開発を担当されていたそうすね。
 春日 最初はVAIOのデスクトップパソコンの仕事をしていたんですけれども、ちょっと飽きたので他のことをしようかと思ったんです。そうしたら、まだ商品化前のAIBOをやっている部隊がありましてね。面白いかなと思って、ちょっとのぞきにいったんです。

 のぞいてみたらロボットがたくさんいるわけですよ、AIBOが。床の上を歩いていたり、机の上で寝ていたり。なんか不思議な世界に足を踏み込んだ感じだったんですよね。AIBOって、動かないと物体なんです。だけど動き始めたとたんに、まるで命が吹き込まれたような感じがする。
 その光景を見て「これは今までにないものだな」と思いました。物なのに生命感を感じるのは何だろう。その部分に興味を持ったのが一番初めでしたね。

 福島 実際にAIBOの開発を担当されて、ロボットビジネスをどう感じたのでしょうか。

春日知昭社長

 春日 最初の段階ではAIBOは、確かに成功したんですよね。トータル十数万台売れました。AIBOはペット型のロボットで、それも1つの答えではあると思いました。しかし、それだけじゃないんじゃないか、ということをずっと思っていましてね。それでソニーを辞めて、自分で始めたんです。

 福島 社内でAIBO事業は、結果的にどう評価されたのですか。
 春日 ソニーとしてはまったく駄目です。小さな会社だったら十数万台売れたらけっこういいセンだと思いますけど、ソニーではどんな商品でも百万台売れて初めて事業部になれるんです。そこへいけなかったので、もう駄目だということが見えていました。それもあって辞めたんです。このままではロボット開発が続けられないなと思ったので。

 福島 AIBOはペット型ロボットですよね。家事をしてくれるとか、被災地で助けてくれるのではなくて、自分の友達というか仲間というか、そういう存在ですよね。春日社長が今目指している感情移入できるロボットも、基本的には同じような方向性ということですか。
 春日 広い意味では同じかもしれませんが、AIBOはインターネットにつながってなかったので情報を取ってこられなかったんです、基本的に。ネットから情報を取れれば今日のニュースを話すことができるし、天気予報でも株価でも、何でもしゃべれるじゃないですか。そうすると機能が全然違ってきますよね。AIBOは可愛いことは可愛いのですが、それだけ。でもネットにつながれば、暮らしの役に立てるんです。

 福島 今、多くの人がパソコンで得ている情報ですね。
 春日 パソコンの画面で見て入手するよりも、ロボットがしゃべってくれたほうがフレンドリーで感情移入できますよね。ときには、思わず話しかけたりとか。だけどパソコンに話しかける人って、ちょっと気持ち悪いですよね。
 僕は最初にAIBOを見たときに「これは歩くパソコンだな」 と率直にそう思ったんです。そう思ったとたん、いろいろな使い道が頭の中でバーッとイメージできました。でも、当時のAIBOグループで「ロボットは歩くパソコンですよね」というと、みんなめちゃくちゃ怒るんですよ。

 福島 何で怒るんですか。
 春日 「違う、ロボットはロボットだ。パソコンなんかと一緒にするな!」という感じですね。まあ、それが一般的なロボットをやっている人たちの反応なんですけど。

今は30年前のPCと同じ状況

 福島 日本のロボット技術のポテンシャルはどの程度なのでしょうか。
 春日 部分的な技術は非常に優れていると思います。例えば本田のASIMO(アシモ)の走らせる技術や階段を上らせる技術などはすごいですよ。介護分野にしても、人を持ち上げる補助用ロボットもありますよね。ああいうのは面白いと思うのですが、基本的には、ある分野の中の非常に小さな部分のことが優れているんだと思うんです。

 ところが、これらを包括するものがない。これは日本に限らないんですけど。走る技術はありますとか、持ち上げる技術はありますとか、災害地で何かできますという技術はあるのだけれど、では、全体を包括して「ロボットとは何か」といったとたんに、ボヤけて分からなくなるというのが今のロボット産業だと思うんです。

 福島 日本に限らず世界的に同じような状況にあるわけですね。
 春日 30年前のパソコンと一緒なんですよ。パソコンも最初、何も目的がなかったじゃないですか。ソフトもろくなものがなくて、ほとんど実用にはならなかった。だけど5年、10年経つうちに、マイクロソフトのMS DOSが出てきたり、表計算ソフトが出てきたり。そして、とどめのインターネットが出てきてビジネスになったじゃないですか。

 今のロボットも、まさしく30年前のパソコンのような状態だと思うんです。答えはまだない。でも僕はロボットだって絶対ネットにつながるはずだと。「ネットにつながるフレンドリーで感情移入のできる初めてのIT機器」という方向で答えが出ると信じています。

 福島 いずれマイクロソフトのような企業が現れて、イニシアティブを握るときがくる。それがスピーシーズ、というわけですね。
 春日 そうなりたいと思っているんですけど。会社を始めて8年目ですが、やっと少し先が見えきたかな、という感じです。最初はロボットでインターネットといったって、みんな何のことやら分からない。「そんなもんをネットにつないで何をするんだ」ってね。
 しかし、ようやくロボットが感情移入できるIT機器だということが、分かってもらえつつあるかなというところです。今日みたいな話がスラスラいえるようになるまで8年かかったという感じですね。

ロボットビジネスの可能性

 福島 一方で春日社長は、今はバラバラに開発されている技術を、ある程度まで標準化したほうがいいという主張をされていますね。
 春日 パソコンだって突然IBM PCが出てきて、MS DOSが出てきて、今ではそれだけになったじゃないですか。そういうことですよね。結局、ITの世界って誰かのものがスタンダードになって、それが業界の標準になってしまうわけです。だから、それに早くなりたいなという。

 福島 標準化されれば、インターネットのように、多くの人にビジネスチャンスが訪れそうです。
 春日 それには多分、いくつかの可能性があると思います。例えばIBM  PCのように、アーキテクチャーから何から何まで、みんなで作っていくパターンと、アップルのiPhoneのようにプラットホームは1種類だけでAppleしか販売できない。しかし、ソフトはいろんな人が作るというパターンと、両方あると思います。どちらがいいのかは、どうなんでしょうね。

 少なくとも僕らは近い将来「ロボットは一家に1台」を目標にしています。そこまでいかなくても、10軒に1台ぐらい入ればメディアになると思うんですよ。メディアになるということは、広告媒体になれる。しかもロボットは、ご主人様の趣味や嗜好、興味などを知っているわけですよ。
 いつもどんな情報を入手しているのかをデータベース化できますから。例えばゴルフが好きとか、自動車好きとか。そうするとサーバーのほうで「ゴルフクラブのすごい新製品が出たよ」という情報をロボットにいわせるわけです。

 福島 コマーシャルソングを歌うとか。
 春日 そうです。ピンポイントの広告ができるんですよ。結局はロボットの特性であるフレンドリーと感情移入とを、どう活かしてビジネスにするか、ということだと思います。

 福島 お話をうかがっていると、近未来のロボットビジネス像が見えてくるようですね。
 春日 ところが今は「ロボットは、非常に特殊なもの」というイメージだけでとらえられています。ロボットというだけで話題になったり、ときには公的機関から研究費を補助されるとか。そういうのは、本当によくないと思っています。もういいかげんにロボットというのをやめろよ、と。パソコンに手足が生えただけでしょう。ところが過剰に期待しちゃうんですよね、ロボットっていったとたんに。

 福島 パソコンということであれば、ウィルスなどに冒される心配もありますね。
 春日 「大変だ、ウィルスに感染してしまった」といって暴れ出したら、それはそれで面白いかもしれないですね(笑)。

鉄腕アトムは作れない

 福島 ロボットがネット端末だということは、ロボットのハード以上に、操作するコンテンツが重要になってきますね。春日社長はこれをロボット放送局と呼んでいますが。
 春日 ロボットはただのプレイヤーなんです。コンテンツは全部放送局にあって、そこでこいつにしゃべらせたり、踊らせたりすればいいわけです。いずれはロボット用の放送局が、たくさん世の中にできるはずです。

 福島 ロボットにこれをやらせるのならば、この放送局がいいというような。
 春日 そうそう、医療用だったらこことか、ギャグをやっているのはこことか。ユーザーが好みの放送局を選ぶ。そういうふうになっていくと思うんですよ。
 ですからロボット放送局を作ることが、僕らの仕事だと思っています。例えばパソコンを買って大喜びしている人って、今はあまりいないですよね。コンテンツが面白いのであって、パソコンがすごいわけじゃない。ロボットだって同じ。ロボットがしてくれることが、すごいはずなんです。

 福島 今のパソコンやインターネットのビジネスモデルと、基本的には同じですね。
 春日 僕がなりたいのは、パソコン業界でいえばマイクロソフトとグーグルなんです。インテルやIBMはどちらでもいい。やってもいいし、やらなくてもいい。

 福島 今年はいよいよ一般家庭用のロボットを発売するそうですね。
 春日 そうです。それを今やっています。予定よりもちょっと遅れていますけど。年内、年度内、その辺には出せるかな。

 福島 どんなロボットになるんですか。
 春日 基本的には、ファミリーコミュニケーターという位置づけです。要するに、我が家に小さな友達のようなロボットがきて、家族とのコミュニケーションを深めるために使える。インターネットにもつながっていて、インターネットの情報をしゃべってくれる。踊ることもできるし、家族間の伝言を伝えることもできる。もちろんカメラで撮影もしますし、ロボットが撮影した留守宅の様子を外から確認することもできます。

 福島 価格設定は、どの程度をお考えですか。
 春日  7万円前後かな。それより高くなることはないですし、できれば、もっと安くしたいですね。

 福島 資料を拝見して興味深かったのは撮影機能です。ホームパーティなどで友人が集まっているときに、勝手に歩き回って写真を撮ってくれる。それも、みんなが笑った瞬間を撮るとか。本当に実現したら楽しいでしょうね。
 春日 大切なことはロボットに何をさせたいかという想像力だと思うんです。空を飛ぶスーパーロボットがほしい、といわれたら何を作っていいのか分かりません。でも、デジタルカメラを歩くようにしたら何が起きるのだろうって考えると、今みたいなことが想像できるじゃないですか。

 今までのIT機器が歩くようになったら何ができるんだろうと考えるほうが、ロボットはちゃんと進化できると思うんです。鉄腕アトムを作ろうといったとたん「100万馬力のエンジンを作らなきゃ」とか「誰の言葉でも理解できる人工知能を作らなきゃ」とか、そういう話になってしまう。

 それよりも例えばプロジェクターをロボット化するとか。そうすれば、好きなところに大画面を映し出してくれるわけですよ。こっちにこいって呼んで「ここで映画を映せ」と指示すれば、「かしこまりました」と映像を映し出してくれる。そういう考え方をしたほうが、いいと思います。鉄腕アトムは作れないんですよ。       (敬称略)

 

春日知昭(かすが・ともあき)氏
1956年4月生まれ。早稲田大学理工学部卒。1979年、東芝に入社し重電事業本部に配属。1985年、ソニーに入社しUNIXワークステーション関係の設計課長を経て、1996年からVAIO設計課長として同社製AVパソコン第1号機の開発・設計を担当。1999年にAIBO技術管理室長に就任。ユーザー向けSDKの開発や社外パートナーとの連携なども担当した。2001年にソニーを退社。同年スピーシーズを設立し、代表取締役に就任した(現任)。趣味のラジコンヘリコプターでは15年以上の経験を持つ。

 

インタビュー後記
 最近、脳科学とロボット工学を融合させ、人間が頭にイメージを思い浮かべるだけで、それに応じた動作をロボットに命じる技術が開発され話題となりましたが、ロボット産業はこれから環境分野とならぶ、日本の技術を世界にアピールできる新産業となりそうです。しかも様々なアプローチがあるのがおもしろいですね。
 春日社長の“ロボットはネットにつながるフレンドリーで感情移入できるはじめてのIT機器”との言葉に、私たちの暮らしの光景が大きく変わりそうな予感がしました。ハードよりもソフトが勝負とのことですが、ITの分野にしても、これまで日本はハードで世界をリードしながら、ソフトで負けるというパターンが多いように思います。それだけにロボットでどんな未来を築くのか、スケールの大きな構想力が問われますね。
 それにしても8年経ってようやく未来が見えてきたとおっしゃていましたが、そのような状況で、大企業のソニーを辞めて起業された春日社長の勇気と情熱、そして行動力には敬服します。春日社長のような方が世の中を大きく変えていくイノベーターなのでしょう。

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