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2013.02.28 (シャニム42号掲載)

地方発!世界で活躍する会社Vol.12

40代で自転車メーカーを創業、
世界9カ国で愛されるブランドへ

編集工房リテラ◎田中浩之
有限会社アイヴ エモーション   【香川県】


▲フレームを交差させた美しい「スラントデザイン」が特徴。意匠登録もしている

 

有限会社アイヴ エモーション
香川県さぬき市寒川町石田東1000-3
代表取締役 廣瀬 将人
℡ 0879-23-6171
URL:http://www.tyrellbike.com/
 


▲讃岐発の世界的ブランド作りに励む廣瀬社長


 たった1人で自転車メーカーを立ち上げ、10年足らずで国内約200店舗、海外8カ国にまで販売網を広げた人物がいる。香川県さぬき市のアイヴ エモーション代表、廣瀬将人。彼の歩みを知ると、地方の小さな会社でも、世界で勝負することは十分可能だと思える。同時に、そのためには並外れたエモーション(情熱)と行動力、差別化に賭ける勇気が必要であることもわかる。

廣瀬は大学で都市環境デザインを学んだ後、東京の都市計画コンサルティング会社に就職した。仕事は多忙を極め、会社に泊まり込むことも多かった。若くして取締役にも就任したが、長男だったこともあり、2003年、生まれ故郷の香川県に帰郷する。人生を一度リセットし、その後の生き方を改めて考えるつもりだった。廣瀬は40歳になる節目で迎えた転機を振り返る。

「しばらくは焦らず自由に過ごそうと思っていました。どんな仕事に就くのかは、まったくの白紙。ただ、おぼろげながら、もの作りをしたいという考えはありました。コンサルタントは人のためにやる仕事だったので、今度は自分が主役になるような仕事をしたいと思ったんです」

充電期間を過ごすうち、廣瀬は当時流行りつつあった「ミニベロ」というタイプの小径型自転車に乗りたくなった。東京で自転車通勤をしていた頃、風を切って走る爽快さに魅せられていたのだ。数十万円する高価なブランド車も所有して、サイクリングもよく楽しんでいた。

香川でミニベロの購入を思い立ったものの、気に入るものがなかなか見つからない。それなら、と廣瀬は思った。自分で作ってみようか……。これが、すべての始まりだった。

 


「自分が乗りたい」にこだわる

Uターン後、廣瀬に初めて具体的な目標ができた。構造などに関する知識はゼロに近いので、専門書を読みふけり、自転車の分解や組み立てを繰り返した。真剣に取り組む廣瀬の頭に、いつしか、ある考えが浮かぶようになる。──これを本格的な事業にできないだろうか?

「次に何かするに当たって重要視したのは、自分のすべてを賭けられるかどうか。ありったけの情熱を込められる仕事かどうか、です。大好きな自転車ならできる、と思いました。私は生活のすべてを自転車作りに捧げるようになりました」

自宅の一室を事務所兼工房にして、廣瀬は毎日、ほとんど終日こもる。自分の感性を完全に具現化する自転車、自分が本当にほしいと思える自転車を作ることに没頭した。廣瀬が参入を狙ったのはミニベロ。当時、スポーツ車などと比べて、種類があまり多くなかった。

「ミニベロなら、新しく参入しても可能性があると考えました。目指したのは、世界最軽量で、かつスピードが出て、長い距離を走っても疲れない自転車。ほかと同じようなものを作っても面白くないから」

軽さについては、特殊な合金を使うことにより実現しようと考えた。価格はかなり高くなるが、差別化することによって、小さな工房でも勝負できると踏んだ。デザインはとにかく際立ったものにしたい。廣瀬は何百枚も図面を引き、模型を作っては修正した末、斜めに交差する斬新なフレームを考案した。エレガントな印象を与えるとともに強度も増す、独創的で秀逸なデザインだ。

半年ほどかけてデザインの図面を仕上げた。次はこれを形にしなければならない。試作品を作ってくれる会社を探したが、どうにも見つからない。ロットが小さいこともあって、相手にしてくれないのだ。どうしたら次のステップに進めるのか……。悩みながら調べるうちに、世界の自転車製造の中心地が台湾であることを知った。

現地の何十もの会社にメールで図面を送り、試作品製作の依頼をすると、感触のよい会社があった。廣瀬は単身、台湾に飛ぶ。会社を訪問し、直談判して協力を取りつけた。その後、改良を繰り返して、2005年春に完成。ブランドは「タイレル」と名付けた。優美なデザインに加え、重量わずか約8キロ。世界最軽量クラスの高性能ミニベロが誕生した。

 

売り上げの30%近くが海外

こだわり満載のタイレルを「ハンドメイドバイシクルフェア2005」に出展。独創的なデザインや構造が高く評価されて、サイクリング・シティバイク部第1位に輝いた。まったくの素人による自転車が、いきなり最優秀賞に輝いたのだ。

「以前やっていた仕事とは全然違う世界だから、やりたいことをかえって思い切りできたのだと思います。経験のあるなしは関係ない。むしろ、経験がないからこそ、面白いものができるんじゃないかな」

しかし、この時点ではまだ販売先はゼロ。廣瀬は自転車を車に乗せて、東京、大阪、愛知などを行脚する。専門誌などで評判の高いショップをチェックして、飛び込みで営業。試乗すれば、よさはわかってもらえる。こうして取り扱ってくれる販売代理店を1つ1つ確保していった。

2006年には早くも海外での販売をスタートさせた。営業をかけたわけではなく、先方から問い合わせがきたのだ。「自分のやりたいことが評価されて、すごくうれしかった」と廣瀬は顔をほころばせる。

今、取り引きがあるのは香港、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、中国、韓国、台湾の計8カ国。今年度の販売台数は約1000台。そのうち、海外での売り上げは30%近くを占める。

「情報化の時代なので、ここ香川にいても海外と取り引きするのは難しくない。世界はつながっていて、アジアはほとんど日本と同じという感覚でいます。国によって好みは少しずつ違うでしょうが、海外だ、国内だということを意識しないで、ほしい人にいいものを届けるというスタンスでいたい」

創業後3年ほどは1人で設計から組み立て、販売までを行なっていたが、今は社員が6名になった。特に求人はしていないが、廣瀬の作る自転車に惚れ込んだ者が1人、また1人と集まってきた。

「売り上げは年々増えています。素人がゼロから始めて、ここまでこられたのは奇跡的(笑)。でも、大きな会社にしたいとは思っていません。自分たちの作りたいものを作る、という創業時の理念は忘れないようにしたい。うちの自転車は価格が14万円以上します。なかなか買えないかもしれませんが、いつかはぜひ買いたい。そう思ってもらえる自転車を作っていきたい」

今、廣瀬が力を注いでいるのが、従来にない新しい折り畳み式自転車の開発だ。もっと小さく、もっと機能的で、もっと美しいものを──。廣瀬なら、この難題にも見事な答えを出すに違いない。              (敬称略)

 

 
▲自社工房で部品を組み立てて製品にする

 
 

 
タイレルを販売しているシンガポールのサイクルショップ