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2012.11.30 (シャニム41号掲載)

福島敦子のアントレプレナー対談 No.41

動物救急センター◎西尾 里志 院長

救急医療ネットワークを拡充し
助かるペットを、もっと増やす!

 

動物救急センター埼玉県川口市)

●所在地:埼玉県川口市戸塚東2-2-24
●電話:048-299-4672
●開設:2010年4月
●診察時間:24時間 年中無休(通常予約時間は10:00〜23:00)
●主な受け入れ症例:
脳神経疾患(椎間板ヘルニア、ケイレン発作、MRIによる脳神経の検査)
救急診療/手術(重症例の緊急診療/手術、血液透析(薬物中毒など)、
24時間看護が必要な症例)
●備考:ホームドクターからの紹介による予約診療が原則。
ホームドクターが必要と判断し、診療予約を入れた場合に、
当日の診察受け入れ、検査・手術を実施している。
●URL  http://a-e-c.info

 

 

獣医療の現状

福島 まずは、なぜ獣医になろうと思われたのか、そのきっかけから教えてください。

西尾 小学校の頃から文集に、そう書いてましたからね(笑)。部屋中を生き物だらけにしても、親は文句もいわずに認めてくれていたというところですかね。

福島 動物が本当にお好きだったんですね。

西尾 そうですね。レコードを買ったのは「1枚か2枚かな?」という青春時代でした。その代わり、バイトした金はすべて動物につぎ込んでいました。やっぱりほしくなっちゃうと、どうしても手に入れたい。そういう動物飼育マニアでした。

福島 なるほど。それにしましても、24時間体制で動物の救急医療を担う医療機関は、日本にはまだ少ないと思います。なぜ、こういう施設を開設しようと思われたのですか。

西尾 基本的に日本の獣医療は大学病院ではなく、個人開業医が引っ張ってきたんです。もともとは産業動物(経済行為として飼育される動物)の診療がメインでした。それを一般のペット診療で「経済的に成り立つのか?」というところから始まったのです。

当時から開業医の9割は、獣医さんが1〜2名の体制。休みは週に1回取れればいいという状態でした。獣医さんも若い時は元気ですから「急患随時受け入れます」とか、そういうキャッチフレーズでやれる。しかし、昼も夜もありませんから10年もたないんです。

福島 相当な無理をなさっているんでしょうね。

西尾 かといって、人を雇って急患体制を作れるかというと、個人開業医では経営的にも獣医師の数的にも難しい。結局はたった1人の獣医さんがフル活動し、疲れてやめていく。そういう流れを見てきました。自分自身も1人2人の24時間365日体制を数年続け、精神的にも肉体的にも追い込まれました。

「では、どうしようという」ことで、まずは地域の先生たちと「電話当番をやりましょう」ということから始まったんです。その次が夜間の専門病院。高度医療センターでの緊急受入。そして行き着いたのが救急診療で最も多い脳脊髄疾患を即日緊急外科までできる病院です。今は緊急時の脳外科・開頭手術もご来院から数時間以内に実施できます。

「すぐに手術してほしい」とか「応急処置だけではなく、もっとハイレベルな治療をできるだけ早くしてほしい」という患者さんが実に多いんです。これに対応するには、電話当番や夜だけの病院では難しい。主治医の獣医さんから「うちでは手に負えない」といわれたものを、即受け入れて即手術する。そういう体制を持った病院を作る必要があった。それが一番の動機です。

 

100軒の協力病院

福島 救急センターの設立で一番大変だったのはどんな点でしょうか。

西尾 経営の視点からいいますと、まずは100軒の協力病院を集めなければいけなかったことですね。

個人開業医にとって、年に3〜4例しか診ない症状は手に負えないんです、設備的にも。やはり大学病院に回さなくてはいけない。ところが現実には、そこまでの間に亡くなったり、何もしてあげられなかった子がたくさんいました。

そういった子が協力病院から集まれる施設にしようと。協力病院が100軒あれば、年間300〜400例は集まります。それだけあれば専用の設備も整えられますし、経営も成り立つと考えました。その体制作りが、当初は一番大変でした。

福島 協力病院は今、どれぐらいあるのですか。

西尾 もう500軒近いです。

福島 それだけの協力病院からくる重篤な病気を抱えた動物や、まさに救急の動物たちを、こちらで受け入れているのですね。

西尾 そうです。ただし、9割以上は協力病院からの紹介です。そうじゃないと回りません。

「おなかを壊しました」「せきをしています」という子を受け入れて検査・治療していますと、僕らじゃなければやれない検査・治療に、人や時間を十分に回せなくなります。

もちろん余裕がある時は診てあげますが、基本的には一般病院さんでできることは一般病院で。僕らのやる分野は僕らがやる。これを明確に分けています。

協力病院の先生に、「うちでは無理だから今すぐにいけ」といわれた子は、すぐに受け入れられるようにしようというのが基本スタンスです。それでも受け入れられずにお叱りを受けることも多々ある状況ですから。

 

救急センターの役割

福島 MRI(磁気共鳴画像装置)などの、非常に高度な機器を導入されているそうですね。

西尾 脳脊髄外科関連でいいますと、一般病院を1つや2つ作れるような高価な設備もあります。手の技術だけではなく、そういった機器で治療をカバーすることは、すごく大切なことだと思っています。

それから、もう1つ重要視しているテーマが「輸血」です。動物には血液バンクがありませんから、輸血用のストックを充実させています。

それまでは、私が飼っている犬の血を分けるというケースが多かったんですよ。これだと家族から総スカンを食らいます。「また、ウチの子の?」と(笑)。

福島 動物の血液型も、組み合わせがあるのでしょうね。

西尾 基本的には、やはり合わせなきゃいけないものがあります。ただ、大体の犬に合う血液型も存在しますので、私はそういうワンちゃんを飼っています。ですが、それだけでは、やはりなかなか難しい。

福島 限界はありますよね。

西尾 次に大切なのが、地域の飼い主さんに協力してもらうこと。夜中11時、12時に協力してくれる熱意のある方もいらっしゃいます。

ただ、患者さんでもある犬ですので、鎮静をかけなくては量を多く取れないという子もいたり、抜いた後に絶対に調子が悪くならないという保証がなかったり……。

福島 人間では当たり前の輸血も、動物だと大変な苦労なのですね。

西尾 現実には、輸血しないで手術することが多いです。輸血リスクをとらない代わりに、最低限の出血量で終わらせる。それには高度な機器でのカバーが不可欠です。

以前、人間の救急病院の先生が、ワンちゃんを連れて来院されました。一緒にオペに入ってもらったのですが、「こんな機械を使っているの?」と驚かれていました。それだけ設備を充実させています。より早く、出血がより少なく、安全に終わるような手術体制を構築しています。

これを個人開業医で構築できますかといったら経営的に難しいのですが、このセンターに患者を集中することで、地域の病院で共有するイメージで、その課題をクリアできたんです。

福島 役割分担を明確化することで、助かる命を合理的に助けられるわけですね。

西尾 特に輸血関連となりますと、大量に輸血ストックを持っていて、緊急外科ができて、24時間の術後ケアがちゃんとできる体制であることの意味は、非常に大きいと思います。

ただし、この「ちゃんと」というレベルをどこまで求めるのかは、飼い主さん次第。「費用をかけられないけれど、とにかく診て」という方から「必ず誰かがついて完全介護してほしい。私も泊まるから」という方まで。これは「標準医療はどこなのか」という問題提起にもつながりますが、我われは「とにかくできることは全部やる」「できるものを提供しよう」と思っています。

 

飼育者免許制度について

福島 今はペットの健康保険も、ずいぶんと出てきているようですね。

西尾 民間の保険は多々ありますし、ペット貯金をしっかりとする方は昔からたくさんいらっしゃいます。そして病気の時のために病気の前からお金をかける方と、とりあえず犬と暮らせればいいという方との、受けられる治療の差が小さくないのは事実です。

「犬は金持ちじゃなければ、飼ってはいけないの?」という議論もありますしね。

個人的には「誰もが飼っていい」という状況から、そろそろ脱皮しなければいけないと思っていますが、多くの人の心理には「家族として仲よく暮らすために、誰が飼ってもいいじゃないか」という考え方が根強くありますね。

そうなりますと、受けられる治療には当然、差が出てくる。飼い主さんはそのことも含めた、基本的な知識を習得する必要があると思うんです。いまだに「犬って肝臓あるの?」とか、基本的なことを知らずに飼っている方がいますしね。

福島 そういう方が、飼ってよいかという問題ですね。

西尾 それを何とか変えたいんですよ、本当は。実現に何十年もかかるかもしれませんけれど、飼育者には免許制度が必要な段階にきていると思います。それが「愛護のベース」ではないのか、と思います。

生き物なんだから、必ず病気はします。これを認識している方は、救急病院がどこにあるのか、何時まで受けられるのか、費用はどのぐらいかかるのか、といったことを最初から計算して、ペット貯金などで準備しています。

福島 クルマには運転免許が必要ですし、保険や税金、定期点検などが義務づけられています。ペットの飼育でも、同じような制度が必要だとお考えなのですね。

西尾 あるレベルの制度化はやむを得ないと思います。ご存知だと思いますが、処分されるワンちゃん、猫ちゃんの問題が常にあります。それを減らす大本は「安易な死を放置しないこと」だと思うんです。自治体の処分施設は社会的に必要とされるだけで、持ち込まれなければ処分施設は必要ないのです。

ペットがほしい人は、ちゃんと育てなければいけない。それを明確にするためにも、飼育者免許制度が必要な時期にきていると思います。

福島 先生のお考えは理解できますが、制度化となると、その波紋は小さくなさそうですね。

西尾 だからこそ、国が率先してやらないと無理だと思います。例えば40キロの大型犬が寝たきりになったらどうするんですか。本当に人と同じ介護が必要になりますが「ちゃんとできるんですね」というところから大型犬を選びましょうとか。小型犬であっても、ワンワン・キャンキャンと鳴く犬種を集合住宅では飼わないとか。

こういうことを最初に学ぶ環境は絶対に必要だと思います。でも、大半の人は面倒くさくて、そこにお金も時間もかけない。20年以上、飼い主さんを見てきましたが、勉強しない大多数の人をどうするかとなると、やはり国主導でやらざるを得ない段階かなと思いますね。

福島 命あるものですから、最後まで責任を持つ覚悟は必要ですね。可愛いから、だけで飼うのではなく。

西尾 可愛いがきっかけで飼い始め、トリミングして洋服を買って、ますますその子に興味を持つ。これは、いいことだと思います。

ただ、そこから10年、15年と育てていき、病気をして死を迎える。その生命サイクルは人よりも極端に短い。そのことも、きちんと認識することが大切です。

 

獣医ネットワーク

福島 今後、西尾先生が目指す動物医療のあり方、あるいは将来展望をお聞かせください。

西尾 各地域に救急医療施設が必要なことは、このセンターをスタートして更に本当に実感していますので、来年、都内にまず1つ作ります。これが受け入れられれば、他の地域にも増やしていけると思います。

ただ、残念ながら現状では人口20万の都市では成り立たない。最低でも200万人ぐらいの都市じゃないと経営的には難しい。ですから、人口密集地域で先行スタートし、その後、利益を還元できるようになったら、人口の少ない地域にも作りたいと考えています。

最初の当番制を作る時に、熱く応えてくれた地域の先生との連携があったからこそ、私は1つの個人病院を大きくするのではなく、個人病院の結集に よる救急医療体制の構築に使命感を感じています。

そういう獣医ネットワークが全国にできれば、本当に何百万頭という子たちをサポートできます。そういう体制を構築することが目標です。

さらには免許制度とか、そういう領域へも活動を広げられればいいかな、とも思っています。これは簡単ではないと思いますが、自分が救急を徹底してやっていれば、60歳を過ぎる頃には、少しは意見を聞いてくれる国になるんじゃないかな、とも思うんですよね。

そのためにも、今は救急体制を各地域で確立することに、全力を注ぐことが重要だと思っています。

福島 目の前で苦しんでいるペットを託す場所がないということは、飼い主さんにとって、これほどつらいことはないでしょう。

西尾 国から獣医師免許を預かる人間としては、それに応えたいと思うんです。

本当のことをいうと、自分が死ぬ前にどこかの自治体で1か所ぐらい、公立の動物病院を作ってみたいですね。これは民間の反発を食らいそうですけど(笑)。個人的には1日20時間勤務でもいいから、公務員になりたいんです。

獣医療をやっていて一番悲しいのはお金のこと。かかるんですよ。何10万もかかるし、年間で100万を超える方もいる。それで挫折する方も少なくないんです。しかし市民病院でしたら、助成なども期待できますし、負担を減らせます。

そして私自身も、獣医療のことだけを考えていればいいといわれたら、それは本当に幸せなことです。

 

 

ペットの救世主!?

福島 うかがっていると、動物医療をメインにしつつも、ペットにまつわる諸問題も、すべて底上げしていきたいという印象ですね。西尾先生は、ペットにとってどういうお立場なんでしょう。

西尾 はっきりいって、飼育マニアから獣医師になった人間ですからね(笑)。好きでやっていることは確かですよ。

ただし昔のように、自分の動物を何とかしたいという気持ちから今は、多くの方々に頼られているという状況が、自分のモチベーションを高めていることは間違いないです。この施設ができたら、次はこの施設を作って、ということの継続が、獣医療全体が底上げするきっかけになれば、と思っています。

福島 ある意味では、究極の飼育マニアというか、ペットたちの救世主のようなイメージですね。しかも、そうした発想の原点は、飼育マニアだった時代に培われてきたのではないのかなとも感じます。

西尾 そうですね。私が知っている獣医さんは、皆さん、本当に好きでなった方ばかりですよ。好きの延長で獣医になったら、今はたまたま世の中の流れがよくって生活できるようになっただけ。本当に熱意だけで獣医になった方々が、日本の獣医療のベースを作ってきました。熱意があるから治療方法は開発されていく。医療からも導入できる。

一つの奇跡的な治療結果であっても、それが毎日毎日実施できれば、標準治療となるわけです。救急診療では、技術も設備も重要ですが、とにかく時間との勝負の疾患が多々あります。今まで救えなかった命も、救えるようになる最重要要素が、治療までの時間であったりするのです。これに必要なのが、熱意であり体力であり、何よりも施設なのです。

今の時代はある意味で、ペットにとっても獣医師にとっても、流れとしては悪くはありません。ペット産業も大きく育ってきていますしね。 でも、だからこそ、流れがいい中で、飼い主さんには一歩育っていただきたいと思っています。といって獣医のように人生をかけた飼育マニアである必要はまったくないんですよ。標準的な飼育者層のレベルが高まっていくことが、やっぱり楽しみだなと思いますね。それが実現できれば、今より、もっとよい飼育環境が生まれると思います。

私自身もそれに応えられるように、できることを精一杯やっていきます。もちろん日本中のペットをすべて助けようなんて思っていませんし、そんなことは不可能です。

けれど、やっぱり少しでも、そのきっかけを自分の力で作ることができたとしたら、それが何よりの喜びですね。体の動くうちに、各地域の救急医療の立ち上げ屋になれれば、その後は育てた後輩たちに任せていけると思ってます。そして 夢の市民動物病院は、生まれ育った相模原市に作りたいかなと思ってます。  (敬称略)

 

 

●インタビュー後記

 日本はペット大国といっていいほど、ペットを飼っている人は多いですし、ペットフードやトリミング、ウェアーなど、ペット産業のマーケットは拡大傾向にあるようですが、医療体制の整備という点では、まだまだ課題があることが、西尾院長のお話からよくわかりました。

また「飼育者免許制度を」という提言についても、納得がいきます。ペットを飼うことは、その子の命に最後まで責任を持つという大変重い行為であることを、私たちは改めて心に深く刻まなければいけないと思います。

その上で知識の習得や経済的な準備など、飼い主としての義務を果たしていくことが必要ですね。医療の充実・高度化、そして飼い主の成熟、この2つがあって、日本は真のペット大国になれるのだと思います。動物に対して深い愛情を抱き、そうした環境づくりに奮闘されている西尾院長に拍手を送りたい気持ちになりました。

 

●福島敦子(ふくしま・あつこ)

 キャスター・エッセイスト。津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て1988年に独立。NHK、TBSなどで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談など、これまでに500人を超える経営者を取材。経済の他、環境、コミュニケーション、地域再生、農業・食などをテーマとした講演やフォーラムでも活躍。企業の経営アドバイザーも務める。ヒューリック(株)社外取締役。島根大学経営協議会委員。1997年にはワインアドバイザーの資格を取得。著書に「愛が企業を繁栄させる」(リックテレコム)をはじめ、「それでもあきらめない経営」「ききわけの悪い経営者が成功する」「就職・無職・転職」「これが美味しい世界のワイン」などがある。

 

 

 

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