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2010.05.31 (シャニム31号掲載)

福島敦子のアントレプレナー対談 No.31

株式会社食文化◎萩原章史社長

萩原章史社長と福島敦子

地方の生産者を支援して
ニッポンの元気を取り戻す!

株式会社食文化(東京都中央区)

2001年4月創業。パソコンを使いこなせない生産者や流通業者と消費者を結び、ブランディング活動・マーケティング活動を通じて、生産者が生み出す産地での価値を、消費者の手元での価値として実現することがミッション。世界中のこだわりの食を紹介・販売する「うまいもんドットコム」をはじめ、築地市場に集まる最高素材やお買い得品などを一般消費者に紹介・販売する「築地市場ドットコム」、築地市場を中心に産地と市場と飲食店等を結ぶBtoBサービスの「うまいもんPRO」をJCBと展開。WEB販売だけでなく、今後は高速道路SA実店舗の出店などを計画中。

http://www.umai-mon.com/
http://www.tsukijiichiba.com/
http://www.umaimon-pro.com/
 

経営危機を機に脱サラ

 福島 サイトを拝見しました。私も食べることや料理、食材に関心があるものですから大変興味深くて。希少価値の高い食材が並んでいて、その一つひとつに紹介コメントや料理レシピまで。つい読みふけってしまいました。このビジネスを始めたきっかけからお願いします。
 萩原 もともと私は大手ゼネコンに勤めており、最後の11年間は北米担当としてアメリカにいました。しかし、会社が経営危機で銀行管理になってつまらなくなってしまって。2000年12月末ですね。その時39歳。40前にやめようと。

 で、日本を元気にしたいなと勝手に思いましてね。アメリカってフェアな国で、公正な商売であれば外国人だって受け入れてくれます。ところが日本はいらない道路を造ったり、不要なダムを造ったり。それが日本を弱体化させたという思いがあって。なぜ地方で不要な道路を造るのかというと、建設業以外に仕事がないからです。

 福島 地方はそうですよね。
 萩原 公共事業以外で食べられない。産業は第1次産業とそれに付随する加工業しかないんですけれども、スーパーマーケットが中心になってくると、地方の産物は扱ってもらえない。いい味噌があっても、手作りだとどうしても高くなり、スーパーでは売れない。一方で過疎化が進み、人口がどんどん減るので、小さな店はやっていけないという悪循環なんです。「じゃあ、地方の物を売って、地方を元気にしよう」ということで始めたのが「うまいもんドットコム」なんです。

 福島 地方の活性化ですね。
 萩原 建設業がバブル崩壊後に吸収した労働人口は60万人ぐらい。この人たちを元へ戻さないと、日本はよくならないわけです。といっても、いきなりITはできない。彼らが得意なのは農業や漁業。あるいはそれに付随した加工業とか。

 彼らが元気になれば消費しますから地方の商店も成り立つ。ということでまずは、その土地で生産されたものを売ろうと。それにはやはり購買力がある人を狙うしかない。全国ベースならマニアックな物でも、ほしい人は100人ぐらいいるかもしれないじゃないですか。

 福島 買う人が例え1%しかいなくても、分母を大きくすれば量が増えるということですね。
 萩原 ええ。ただし日本にはキーボードの文化がない。特に地方のお年寄りには。だからいくらIT化といってもパソコンができない。それでうちでは、生産者はファックスだけでいい。インターネットはうちが手伝ってあげて、あとは産直で出荷するか築地市場に送ってくれれば、こちらで出荷しますよという仕組みなんです。

 福島 自社で全コンテンツを作る。そこが他社との大きな違いですね。
 萩原 そうです。私が料理をし、カメラマンと2人でスタジオ撮影して原稿も書く。産地へも私が出向いて生産者とやりとりしながら、コンテンツを作っています。

 

自身で厳選した扱い商品

 福島 会員数は今、どれぐらいいらっしゃるんですか。
 萩原 35万人ぐらいです。うまいもんドットコムは40代〜70代の方がメインで、7割が男性。いわゆる主婦はあまりいないですね。

 福島 経済的にも余裕があって、食にこだわりを持っている層。
 萩原 食を楽しみ、お酒も飲む人たち。ですからそういう物が出ます。霜降りサーロインステーキも売っていますが、あんまり売れない。

 福島 どこでも売っているし。
 萩原 それよりも赤身の濃厚なうまい、フルボディの赤ワインに合うよね、みたいなね。500gのブロックとか、塊の分厚いのがよく売れるんです。あと牛タン1本とか。ほとんどがリピーターです。うちでしか売っていない物って、すごく多いですよ。ヤシガニを売っているのも、うちだけでしょうね。

 福島 ありました、ありました。サイトに。珍しいなと思って。
 萩原 実際に画面に出ていなくて、お得意様限定でメルマガでしか紹介しない物がかなりありますから。

 福島 そうなんですか。
 萩原 調理法が分からない方に買われちゃうと、それもまた不幸なので、分かる方にしか売らない。

 福島 でも軌道に乗るまでは、大変だったと思うんですけれども。
 萩原 苦労したのは売ってもらうことですね。売らせてくださいとお願いしても「誰だ、お前?」みたいな。インターネットといっても…。

 福島 それを聞いただけで危ない人みたいな。
 萩原 アレルギーみたいな感じで、なかなか相手にしてもらえなくて。

 福島 どうやって信頼を築いていかれたんですか。
 萩原 起業が40歳でしたし、高齢者とコミュニケーションするのは、ゼネコン時代から慣れていたからです。話を合わせられるんです。アメリカでもいろんな民族と仕事をしていたので、うまく合わせてましたし。最初は嫌だといわれても「じゃ、5個だけ」とか「3個だけ」とか。商売にならないですよね、3個や5個では。でも、まずそれで撮影をして翌年に備えると。

 福島 多くのショッピングサイトは、出店料がビジネスの柱ですよね。
 萩原 うちは、ほとんど取ってないです。月々5万円とかっていうのは。基本的には売り上げ手数料がうちの収益。なので厳選して売れる物を、やらないといけないわけです。

 福島 実際に現地にいってご自分の目で見て、食べて載せるかどうかを決める。
 萩原 そうならざるを得ない。ですから同じ産地の同じ物はやらない。1社神戸ビーフが出ていれば、そことしかやりません。

 

小さな幸せをたくさん創出

 福島 お話をうかがっていると、いい物を一生懸命作っている生産者を応援したいというお気持ちが、強いように感じますね。
 萩原 そうですね。いい物って、地域にはいっぱいあるんです。ただ、その価値を認知させるためには、マーケティングも必要。そこを私が手伝ってあげています。
 そうすることで例えばおばちゃんたちの雇用が5人分生まれる。おばちゃんたちは月に5万円もあればハッピー、何十万円もいらない。そうしたら5万円を5人がもらえるような売り方をすればいい。徹夜して作らなくても、1日5個ずつ作ればいい。そういう提案をしています。ちっちゃな幸せをたくさん作ってあげるというと、ちょっと変なんですけど。

 福島 小さな幸せ、ですか。
 萩原 例えば桃農家に世帯年収でどれぐらいほしいかと聞きます。子どもを大学にいかせたいから600万円というのであれば、それを年間生産量で割れば、単価が分かるじゃないですか。だったら、これぐらいの桃を作らなければ1箱3000円じゃ売れないよ、というのが出てくるわけです。いつも具体的な数値を出して理解させてあげています。

 福島 まるで経営コンサルタント。
 萩原 そう。でもタダです(笑)。

 福島 単にいい食材を見つけるだけではないんですね。
 萩原 ええ。でも、地元の人に企画させると、あれもこれも入れたがるんですよね。何でこれ入れちゃうの? みたいな。

 福島 分かります。田舎の旅館へいけばいくほど、すごい数のお料理が出てきて。しかも「こんな山中で、なぜお刺身なの」ということがありますよね。
 萩原 やめなさいというんですよ。何でまずいマグロを出すんだ、とか。パサパサのカニとかね。今の時期、禁漁じゃないかって(笑)。

 福島 精一杯もてなしているという思いなんでしょうね。
 萩原 価値観のギャップですね。価値観が違ったら、全然違う選択肢になるわけです。例えば最近うちで売り出したのがハローキティのジンギスカン鍋。

 福島 キティちゃんの形をした?
 萩原 そうです。社員は最初「こんなの誰が買うの」といっていた。でも僕は「絶対男が買う!」って。

 福島 男性が?
 萩原 家で娘さんにジンギスカンやろうといった時に、「パパ、これ買ったよ」と。子どもは喜ぶじゃないですか、特にお嬢さんは。

 福島 お母さんは?
 萩原 思わない。バカげているから。6000円と聞いたら「バカじゃないの、こんなの」(笑)。

 福島 家計を考えてよ、と(笑)。
 萩原 でも男性は、これで娘が喜んでくれるとか。友だち呼んでジンギスカンやったら盛り上がるかな、とか。価値観が全然違うんですよ。

 福島 なるほど。
 萩原 僕はいつもそういう目線で見てます。しかも、うちの食材は素材がいいので、塩こしょうだけでもおいしい。例えうちで2万円使ったとしても、外で食べたら5万円はかかるだろうという内容なので、そこを計算すれば高くないと思えるわけです。でも家計簿で考えたら「高い」。エンゲル係数の中で勝負しないのが僕の原則なんです。

 

価値を伝える3つの原則

 福島 最近は小さな商店で、本当にいい物を一生懸命作っている人たちが成り立たなくなり、多様な個性が共存できない社会になってきているような気がするんですけど。
 萩原 まさしくそうです。以前だったら食品業界も、同じ食べ物の中での取り合いでした。でも今はすべての商品に対しての掛け合わせ。このお金を捻出するために、ゴルフをやめようとか。消費行動全体の中で、何を優先させるかという時代です。そこで大事なことは「シーンを想像できるか」なんですね。

 福島 シーンですか。
 萩原 消費するシーン。例えば今夜、僕が福島さんと妻と3人でとっておきのワインを開けるとします。「じゃあ、何を食べようか」「こんなものがいい」。そういうことを想像してくると、「じゃあ、いい東京シャモがあるから、ローストしながら食べようか」とか、「あれを買おう。これも必要だ」などと想像がどんどん膨らむんですよね。

 キティちゃんの鍋にしても、週末は家族でジンギスカンやろうと。で、肉はあれにしよう、お酒はこれにしようとなるわけじゃないですか。そして今月のお小遣いの内2万円はこれに消えるから、そのかわりあれを我慢しようっていう優先順位が決まってしまうわけです。そういうことを考えている小売業は、非常に少ないと思いますよ。

 福島 毎日安売りしなきゃ買ってもらえない、という感じですよね。
 萩原 一番初歩的な販売促進は価格を下げること。誰にでもできる。でも、高くても売れるようにするには、価値を伝えられないといけない。価値を伝える手法は、基本的に3つあると考えています。一つは「エモーション」、感情です。

 例えば島根の山中でお婆ちゃんたちがおいしいお米を作っていますと。本当においしいかどうか分からないけど、お婆ちゃんが手塩にかけて育てたと聞いたら「おいしいかな?」って。これは感情ですよね。で、「このお婆ちゃんたち、生活大変なの。少しでも高く買ってね」といったら、「いいよ」といって買ってくれる。これも感情です。

 二つ目は「センス」。例えば園遊会があって、宮内庁の用意したお料理が播磨という日本固有の鶏肉でしたと。宮内庁御用達で陛下が召し上がるんだったら食べてみようとかって。これはもう、センスの話になるんです。自分では価値が分からなくても、ベンチマークになる人が食べているのだから、その人のセンスに合わせる。そこに価値を感じちゃうんですよ。徳川家に献上していた、でもいいんですけど、よっぽどすごくないと徳川家には献上しないよねって思うじゃないですか。

 福島 それでお墨付きを得たことになるわけですね。
 萩原 それで価値が浸透していく。で、最後の一つは「論理」です。理論的に説明できること。例えばうちでは天然記念物の見島牛という山口県産の牛肉を売っていますけど、年間12〜13頭しか出荷されない。しかも、黒毛和牛のルーツなんです。朝鮮半島から渡ってきた時に、そこで最初に繁殖したんです。そうすると12頭しかないし、黒毛和牛のルーツだし、天然記念物だしということで、これは多分価値あるよね、ということが数値として理解できるんですね。

 福島 その3つが価値を伝えるための基本項目。
 萩原 3つのうちの、どれかがない物はダメ。売れないですね、価格以外では。

 

食を通して父権を復活

 福島 日本人の食に対する感覚を、萩原さんはどう見ておられます?
 萩原 世界一うるさい。そして、世界一いい加減。なぜかというと、日本だけです、スーパーに計りがないのは。世界中どこでもみんな、計り売りですよ。ナスでも、キュウリでもポンドいくら、1オンスいくら。

 福島 日本は3本いくら。
 萩原 日本は相場が上がると量を減らすんですよ。なぜ日本のスーパーがダメかというと、度量衡が統一されていないからです。米だってそうでしょう。研ぐ時は「合」ですが、買う時は「キロ」。5kgの米から何号のご飯が炊けるのか、ほとんどの人が想像できない。

 福島 わざとそうしている。
 萩原 おかしな話でしょう。この前、ある県に出向いたのですが、そこは年間50万トンの米を作っている。50万トンということは5億kg。ということは1kg10円高く売れたら50億円増える、農家の収入が。そのほうが戸別保障より、いいと思いませんか。編み傘かぶったお姉ちゃんのブランディングなんて、もうやめなさいと。潤うのは広告代理店だけ。僕なら10円高く売るよって。

 福島 まさに正論ですね。最後に今後の展開についてお願いします。
 萩原 基本は産地のブランド化、マーケティングですよね。これを手伝う会社であり続けます。隠れた物を世に出して、紹介・販売する。そしてうまいもんドットコムのように、本当にこだわったお客さんだけをターゲットに、トップブランドを作ることが仕事なんです。

 トップブランドが認知されれば、その下のクラスも上がってきます。例えばうちで売っている最高等級のトマト。これは店頭には並ばないけれども、その下のものは並ぶということがよくあるんですよ。
 あとは家庭の食をよくして、父権を復活することも、非常に重要な僕のテーマです。

 福島 お父さんの?
 萩原 昔はお父さんが子どもに「好き嫌いするな」とか「残すな」とか、厳しくいいましたよね。理にかなっていると思うんです。家庭の中にきちんとした価値観がないと、世の中へ出ても難しいと思うんですよ。自分の価値観を持っている人が他人の価値観を理解できる。

 外国でもそうなんだけど、日本人としてのアイデンティティーがなければ、アメリカで勝負なんかできない。アメリカ人は、いうことがまったくバラバラ。民族で違うから。だけど「お前は嫌いだけど、お前のいうことは理解する」という。食べ物も一緒。米粒残しちゃいけないもそうなんですけど、もったいないとか、そういう価値観を子どもの時にきちんと持たせれば、どこでも通用すると思うんです。

 福島 食を通じた日本文化の再構築、という感じですね。
 萩原 できるだけみんながハッピーになるような形を作っていきたいですね。日本人のいい言葉に「お互いさま」ってあるじゃないですか。最近それを聞かなくなりましたよね。

 福島 今はむしろ「私だけは」。
 萩原 何かあると、すぐに犯人捜しして。社員にもいうんですよ。つまらないクレームがきたら「お口に合わなかったんですね。ごめんなさい」でいいって。わけ分からないことをいってくるんですよ。「思ったほどおいしくない」とか。思ったほどって何だよって(笑)。          (敬称略)
 

萩原章史(はぎわら・あきふみ)氏
1962年静岡県生まれ。大学卒業後、大手ゼネコンに勤務。中国・アメリカなどを中心に13年を海外で暮らす。2001年帰国後、(株)食文化を設立し「うまいもんドットコム」を開業。2004年東京築地青果市場と提携し、全国の特選野菜や果物を宅配する新ビジネスも開始。2007年7月に放映された「ガイアの夜明け」(テレビ東京)に出演するなどテレビやラジオなどでも精力的に活動中。


 

インタビュー後記
 モノが売れない時代、とかく安売り競争に陥りがちですが、萩原社長がおっしゃった価値を伝える3つの原則は、なるほどと思いました。
 確かに私たち消費者は、価格だけでモノを選んで買うわけではない。そのモノに付随する物語も含めて買うのだと思います。そんな消費者心理を的確にとらえ、商品を厳選、まさに物語を発信したところにビジネスの成功があったのでしょう。
 地方に出張すると“ここは田舎でなにもありません”と地元の方が故郷を卑下される言葉をよく耳にします。本当は宝物がたくさんあるのに気づかない。
 萩原社長が地方の隠れた食材に光を当てたように、眠っている素晴らしいモノの価値を、消費者の心にグッと響かせるビジネスがもっと出てくると、日本全体が変わっていきそうな気がします。