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2008.05.20 (シャニム23号掲載)

福島敦子のアントレプレナー対談 No.23

東京発電◎松本一紀社長
松本一紀社長と福島敦子
 
「マイクロ水力発電」
の普及で
地球に優しい電力を供給
 
東京発電(株)(東京都港区)
1928年、東京電燈(現・東京電力)の傍系会社・姫川電力㈱として設立され、55年に最初の水力発電所が運転を開始。08年3月末現在では、関東甲信越 エリアに63カ所の水力発電所を持ち、総出力約18万kW、約25万世帯分の電力を供給している。水力発電を主業務としつつ、風力発電所や火力発電所の建 設・運営・維持管理なども行ない、06年からは水道管や農業用水路などの既存設備に水力発電所を付設する「マイクロ水力発電」事業に取り組んでいる。
http://www.tgn.or.jp/teg/index.html

 

電力業界の規制緩和

福島敦子氏 福島 最初に電力業界の現状について教えてください。
 松本 日本に10社ある東京電力や関西電力などの大手電力会社は、一般電気事業者といい ます。それ以外に、もっぱら発電を行ないその電気を一般電気事業者に売る会社。これを卸電気事業者といいますが、わが社はそこに位置づけられています。し かも東京電力の100%子会社ですから、そういう意味ではちょっと異質な会社かもしれませんね。

 福島 電力業界も 規制緩和が進み新規参入や電気料金の自由化などで、競争が激しくなってきていると思うのですが。
 松 本 確かに電力の自由化は、私どもにも大きな影響を及ぼしています。自由化によって電気料金にも競争原理が働きますから、今までの ように法律で担保されたコストを見込んで価格を設定したビジネスができなくなる。市場で取引できる価格が求められるわけです。ですから東京電力とは契約更 改の都度、おしくらまんじゅうをしながら電気料金を決めています。

 福島 子会社といえども「高かったら他から買い ますよ」ということですね。
 松本 ええ。今の私どもは一般電気事業 者にしか売れないんですよ。

 福島 2010年から法律が変わるんですよね。
 松本 よくご存じですね。2010年以降は、どこへでも電気を売れるという非常に自由な経 営ができる。ですが、果たしてそこまで思い切って打って出られるかどうかは、極めて難しい部分でもあるんです。

 福島  マイクロ水力発電に乗り出されたのも、2010年以降に向けた新たな試みですね。
松本一紀社長 松本 おっしゃる通り。今までのように既存発電所の電気という商品をただ売っているだけで すと、事業としての発展性がない。しかも電気料金が下がれば、ボリュームが変わらない以上、売り上げが落ちるだけです。そういう状況を、私どもの持ってい る力を他に展開することでカバーしようということです。

 福島 コストを抑えるといっても限界がありますね。
 松本 そうですね。この会社は50年以上も、既存設備を大事に使って親会社に電気を引き 取ってもらう、非常に安定した経営が続いてきたんです。しかし、その状況は、仕事をやっている今の若い人たちにとってどうなんだろう、という疑問が湧きま してね。「これじゃいかん。何か自分たちのできることに、思い切って手を付けないと」ということで、発電をコアにいろんな事業を模索してきました。
  そして3年前なんですが、マイクロ水力発電事業の話がきましてね。東京電力グループ内のある会社がこの事業を持っていたのですが、事業として立ち行かな い。で、当社で事業計画を徹底的に練り直しまして、うちがやれば極めて効率的なことが分かった。何とかいけそうだということで営業権を買い取ったんです。

マ イクロ水力発電とは

 福島 マイクロ水力発電は、まだ聞きなれない言葉です。一般に水力発電といいますと、川に大 規模なダムを造って、CO2は出さないにしても、景観や環境に与えるダメージが大きいというイメージがあります。しかしマイクロ水力発電は、まったく違う ということですが。
 松本 マイクロ水力発電というのは、元々きちん とした定義がないんですよ。ただの小規模水力発電をマイクロ水力発電と称していた程度なんです。そこで、わが社で定義づけましてね。基本的に「既存設備に 付加して設置する発電所」をマイクロ水力発電としました。その上で“Aqua μ(アクアミュー)”という名前で商標登録をしました。

  福島 既存設備にプラスアルファするのですか。
 松本 分か りやすいのは、水道管です。あれにパイプ管を付けて水を通し、その水の流れで水車を回して発電機を回す。水道水は常に流れていますから、非常に安定した水 力が使える。しかも、水道管は地下のトンネルの中に多いですから、そこに発電所を作れば景観も損ねず、音も洩れにくいわけです。発電の規模は小さいんです よ。今までのケースですと50〜350kWぐらい。だいたい100kWで、一般家庭200軒分ぐらいの発電量ですね。


  福島 大規模な水力発電所と違って、環境に与えるダメージがなく、しかも、元々存在していた水力を有効活用できるわけですね。
 松本 未利用のエネルギーを活用する、という点が大きなメリットです。ここへきて急激に 設置件数が増えてきましてね。3年前に6カ所でスタートしたのですが、この3月末には13カ所まで増えました。

 福島  どういう法人からのニーズが多いのですか。
 松本 今は大部分が水道 局です。スタート当初からターゲットをそこに絞って、提案してきた結果です。実際の運用では、必ずしもわが社が設備を作って保有するというケースだけでは なく、相手さんが設備を持つことも可能なんです。この場合、出来上がった設備のメインテナンスは、私どもが責任を持ってやります、ということです。

  福島 相手がその設備を持つ場合は、そこで発電した電気は大手電力会社に売るわけですか。
 松 本 これもいろいろです。自家消費といいますが、自分たちの設備で直接消費するケースと、東京電力にすべて送電し販売するケース、 そして自家消費して余った一部を東京電力に送電し販売するケースと、だいたい大きく3つあります。

マイクロ水力発電 への評価

 福島 マイクロ水力発電には大きなメリットがあると思いますが、具体的にはどこを評価されたのですか。
 松本 これは直接聞いたわけではないのですけど。自治体は昔からクリーンエネルギーに取 り組んできていたんです。まず皆さんが手を付けたのは風力発電ですね。クリーンエネルギーのPR効果も大きいということで。作るまではよかったのですが、 あれは文字通り風任せなんです。事業性という面からいくと、極めて難しい設備なんですよ。せっかく作ったが、まったく収入にならない。設備のメインテナン スもままならず、結局は故障して止まっているというケースが少なくないんです。

 福島 ニュースでも伝えていました ね。税金の無駄遣いではないかと。
 松本 風の条件がよければ、ある 程度の収入になっているケースもあります。しかし、クリーンエネルギーは何をやればいいか、迷っている自治体もたくさんある。そういう中で、私どもはタイ ミングがよかったんですね。マイクロ水力発電は未利用だった水力を使って、クリーンにエネルギーを発生できるということで、環境貢献のPR効果が非常に大 きいんです。
 それから、もう1つ。これは私の想像ですけれども、例えば水道管を利用させていただくにしても、それに見合う果実をお返しできるこ とが評価の1つだと思うんです。水道局さんからみると、自分たちの持ち出しは一切ないけれども、それに対する果実が毎年得られる。その自治体の中で1つの 収入源を確保しているという意味での説得力といいますか、水道局全体の事業収支の中でプラスアルファ分として、そういう収入源があることのメリットが、大 きいんじゃないかという気がします。

 福島 今は原油価格が高騰するなど、エネルギーコストがものすごく高くなって いますからね。マイクロ水力発電事業に取り組んでいるのは東京発電さんだけなのですか。
 松 本 そうです。もちろん、いろんなメーカーさんが水車や発電機を作っていますから、メーカーに頼んで設置してもらい、電気を起こす ことはできます。できますけれども、スタートから相談にのってメインテナンスまで、どういう形が一番いいのか、ご要望に合わせて進めさせていただける会社 は私ども以外にはない。最適設計をどうやるか。どういう機器がいいか。あるいは各種規制に関する届け出申請など。こういったものまでをスムーズに進められ る会社は、わが社ぐらいだと思います。


老舗旅館の景観再生

 福島 資料を拝 見しましたが、伊豆の旅館「落合楼」(写真1)の自家発電機を再生されたそうですね。あちらもマイクロ水力発電を利用したのですか。
 松本 発電の規模からいくと、マイクロ水力発電ということになります。ただし、マイクロ 水力発電とはわが社の定義でいけば、既存設備に発電システムを付帯すること。しかし、落合楼のケースは、廃止された発電所を再生したものです。しかも、川 の水を堰き止めて発電し、その水をまた元の川に返しています。ですからマイクロ水力発電ではなく「再生事業」と位置づけています。

  福島 歴史のあるいい旅館だそうですね。
 松本 明治7年に できた旅館でして、国の有形文化財にも登録されています。かつては自家発電をしていたのですが、十数年前から放りっぱなしになっていたんです。それを何と かもう1回生き返らせられないかと。オーナーと最初にお話しした時に、何とかしたいと思ったんですよ。

 福島 どう して、そこまで強く思われたのですか。
 松本 オーナーが、昔の旅館 の写真を持っていましてね(写真2)。昭和35年頃のものなんですけど、旅館の隣に川が流れていて、そこにボートが浮かんでいる。以前はそういう風景だっ たんです。なんてきれいな風景だって。しかし、平成16年当時は川が荒れ果てて、見る影もなかったんです(写真3)。
 オーナーは何としてもこの 写真のイメージを回復したいと。私どももせっかく使われていた設備がそのままになっているのはもったいないと感じました。調査した結果、何とかなりそうだ ということで、発電設備に関わる部分だけを買い取ったんです。で、私どもが進めてきたマイクロ水力発電の技術を生かして再生に取り組みました。

  福島 こんなにきれいになるんですね(写真4)。びっくりしました。
 松本  再生前は魚が全然上がれなかったんです。それで、えん堤(ダム)を再生する際、魚の上がる道を2カ所整備しまして、今では鮎などが、どんどん俎上できるよ うになった。河川の環境を改善したという意味で極めて大きな意義がありましたし、廃止されたエネルギーの再生という新たな事業に取り組むこともできた。そ して、旅館の方も、当時の景観に近いイメージを再生できた。
 この同じ思いで、これが出来上がったのですが、やはりオーナーの強い意志がなかった ら、無理だったかもしれませんね。こういうスタイルの再生事業は、今年度も1つ完成させます。


組織の活性化

  福島 競争環境が厳しいとはいえ御社の場合、東京電力という大お得意様がいて安泰といえば安泰。にもかかわらず、松本社長はなぜ、そこまで急速に 新事業を進めようという思いをお持ちになったのですか。
 松本 私は 東京電力に入社して27年ぐらいずっと本社におりました。その後、事業所の責任者で出してもらったのですが、そこで感じたのは、会社を支えているのは現場 の1人ひとりだということです。
 電気料金にしても、毎月集金にうかがわなければいけないお客様もいます。3カ月間未払いとなっている方とか、そ ういう所へも日参しないといけない。時には怖いお兄さんに脅かされたり、部屋に閉じ込められそうになりながらです。そういう現場の1人ひとりが、会社を支 えていることを強く感じましてね。で、この会社にきても、まずは現場に出向き、徹底的に若い人たちとの懇談をやり始めたんです。

  福島 なるほど。その時の若い人の声は、やはり新しいことをやらせてほしいと。
 松 本 出ないんです、それが。

 福島 出ないんですか。
 松本 全然。だから最初はちょっと強引だけれども、自分の考えをどんどん取り入れるしかな いと突っ走ってきましてね。その結果、今は連中と話すとまったく違いますよ。青森にいきたいとか、火力の勉強がしたいとか。そういう話が飛び交うように なったんです。

 福島 組織がものすごく変わったということですか。
 松本 法制度が変わり、自由に商売できる時代がくる。その時に、自分たちの会社をどうした いかを、自分たちで考えてくれと。それをまとめ上げて道筋を作るのは私の責任。だから、とにかくどうしたいかってことだけは出してくれと。現場の連中も含 めたいろんな議論の結果が、今の新規事業に集約されたのだと思います。

 福島 東京電力というと官僚的な印象を持っ ていましたが、ずいぶんとイメージが変わりました。東電マンとしての松本社長は異色なんですか。それとも典型なんですか。
 松本 考え方は異色かもしれませんね。本部機構に長くいましたから、ある意味で金太郎飴的 に見られるかもしれません。けれど、私自身は決してそうではないんじゃないかと思っています。      (敬称略)

 

 

○松本一紀(まつもと・かずのり)氏
 1940年、長野県生まれ。64年東京電力入社、経理畑を歩む。93年豊島支社長、2000年理事東京南支店長、01年東新ビルディング㈱専務取締役を 経て03年6月に東京発電取締役社長に就任。趣味は俳句、尺八、ゴルフ、スキューバーダイビング。

 
 
インタビュー後記
 「マイクロ水力発電」の存在を、今回初めて知りました。未利用だった水力を活用して電力を生み出すという発想は、環境への負荷が少ない新エネルギーの開 発が急務の今、とても有効な技術ではないでしょうか。水道管は全国の至るところにありますし、今後、急速に増えていくことを期待したいですね。  松本社長のお話をうかがって感じたことは、働く人のモチベーションを高め、組織を活性化するためには、トップの役割がいかに大切か、ということです。こ のことを改めて実感しました。東京電力という大お得意様がいて、安泰ともいえる環境の中、新しい風を吹かせることは簡単ではないと思います。  松本社長は一見物静かなイメージの方だけに、新規事業にかけるあのエネルギーはどこからくるのかしらと、ちょっと違和感を感じたほどでした。今後とも持 ち前のバイタリティーで、さらに新規事業を生み出していかれるのだと思います。(談)