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2011.02.28 (シャニム34号掲載)

福島敦子のアントレプレナー対談 No.34

株式会社六星◎輕部英俊社長


柔軟な発想で未来を切り開く!
ベンチャー気質の「農業法人」

株式会社六星(石川県白山市)

●設立
1977  中奥六星生産組合
1979  農事組合法人六星生産組合
1989  有限会社六星生産組合
2007  株式会社六星
●役員・社員
35名(平成22年12月31日現在)
●主な取引先
全国の個人のお客様、小売店、飲食店など
●ミッション(同社HPより抜粋)
 日本の農業をより良いものに変えたい。活気のある産業に変えたい。私たち六星は、農産物の生産から加工、販売まで一貫して行ない、「安心でおいしい食の提供」と「真の情報交換」によって、日本の食と農業に元気を届けます。
 これまで若者が集まらない、農業を改革し、感動・経験を共感・共有する場を作り、農業を通じて社会に貢献できる事業を目指します。
●HPアドレス
http://www.rokusei.net/
 

かき餅の加工販売からスタート

 福島 昨年の国会で6次産業化法案(農村等を1次産業の食糧生産基地だけでなく、加工する2次産業、販売する3次産業をあわせて振興する法案)が通り、農家を支援しようという動きになってきています。六星さんは、もうずい分と前からこの形でやってこられましたよね。
 輕部 昭和56年頃、かき餅(薄く切って乾燥させた餅)を作り売ったことが始まりです。きっかけは当時、米の収穫後には何もやることがなかったから。マージャンするぐらい(笑)。それも面白くないので、何かをしなくちゃいけないという時に、農協からアドバイスされたそうです。加工品をやってみたらどうだと。そこで「かき餅でも作るか」という感じで始まったんです。
 これを百貨店の催し物会場に持っていったところ、すごい勢いで売れたそうです。最初は都会の人が「懐かしい」ということで、そのうち、添加物なしの「本物の食」として注目されたり、「太らない」とか「子どもにもよい」などと健康面を評価されたりもしました。

 福島 昔から作っているものだけれど、時代が変わってより貴重になってきたわけですね。
 輕部 そういう意味では運がよかったと思います。百貨店で販売すると、今度はスーパーや個人のお客さんが直接取引をしてくれるようになりました。それが広がって今の柱になっています。

 福島 経営が安定し、しっかり利益を出していらっしゃるのは、やはり2次産業、3次産業もやっていらっしゃったからですね。
 輕部 そうです。それだけです。

六星の存在価値

 福島 お米を作るだけでは、やはり厳しいのでしょうね。
 輕部 お父さん、お母さん、息子とそのお嫁さんぐらいだったら、給料を払わなくてよいのでそれでも成り立ちます。でも人を雇うとなると、それでは済まない。毎月給料を払うとなると、価格は安定した方がいいし、1年中商売ができる方がいい。お米は秋に採れて農協に出してお金をもらったら、それで1年を過ごさなきゃならないわけです。

 福島 6次産業化法案の方向性は正しいのですね。そうしないと、これからの農業はやっていけない。
 輕部 そうです。1次はないと話にならないですけど、やっぱり3次だと思うんですよ。別に米でもいいんですよ。販売先がきちんとあれば、それに越したことはない。手間をかけて餅なんか作らなくてもいい。でも、それはなかなかうまくいかないですね。

 福島 農協を通さないで自分たちで売ろうとしても1次品では難しい?
 輕部 差別化がしづらいのと、差別化をしても価格競争になりがちですね。しかも、相場による乱高下も激しい。それよりは加工品の方が価格が安定しているので、やっぱり2次、3次産業になります。本来は1、3でもいいと思うんですよ。でも成り立たないので、じゃあ2も入れるか、という考えだと思います。

 福島 加工食品は付加価値の高いものに絞り込んでいるのですか。
 輕部 いいえ。どちらかというと、やぼったいものですね。商品作りの基本は農家のお婆ちゃんが家で作っていたものと同じものを作ること。添加物や保存料を使わずに、家族みんなに分け与えるような感じです。
 おいしさと鮮度をとにかく追求し、手作りを基本としています。高級品を作ろうという気はないんですけど、結果的にコストがかかってしまうことも多いですね。


 福島 自分たちで育てた農産物を原料に、家で昔ながらに作っていた手法で作る。
 輕部 どこかの農産物を仕入れて作って売るということも、経営を考える上ではあり得るんです。そっちの方が安い場合もある。でも、それをしたら、僕らの存在価値がなくなります。
 漬け物も作っているんですけど、自分たちで野菜から作ることに価値があるんじゃないかと。そこはブレちゃいけないと思っています。

 福島 規模が大きくなってくると、そこをどうするかが大きなテーマになりますね。
 輕部 他人が育てたものを他人に加工させて、名前だけ六星にするという方法もあります。でも、それならやらない方がいいですよね。

農業が持つ特殊性

 福島 輕部社長は大手住宅建材メーカーから転職してこられたと聞き、ちょっと驚きました。なぜ農業に転職したのですか。
 輕部 そこには物語性がまったくありません(笑)。六星はもともと、農家のお父さんたちが個人では限界あるということで共同で始めたんです。その中の1人が義理の父、妻のお父さんなんですよ。

 福島 そうなんですか。
 輕部 六星がさらにステップアップしようという時期に人がほしかった。営業を意識していたんだと思います。僕は営業をしていましたので「どうだ?」と。
 それで実際に住むとどうなるかを考えたのですが、結果的に子どもが住みやすい環境というのが大きかった。それから妻が実家の近くにいることも、家庭円満の秘訣じゃないかと。実家の近くで子どもを育てることもよいかなと思いましてね。
 また、僕が以前勤めていた会社は2万人規模ですが、当時の六星は10人ほどでした。でも小さな会社で頑張ることも、いいのかなと思いましたし、通勤電車のラッシュも嫌でしたし(笑)。

 福島 実際に農業を仕事にすることへの迷いは?
 輕部 その辺はあまりなかったです。最初は六星が何をしている会社かよく分からなかったんです。興味もなかったですし。声をかけられた時に、田んぼを借りて農業をして加工食品を作っていると聞いて「ああ、そうなのか」っていうぐらいで、大変そうとか、楽しそうというイメージは湧きませんでした。「それもアリかな」ぐらいの話ですね。

 福島 では農業にすごく関心があったとか。
 輕部 なかったです。あまりいっちゃいけないのかもしれないですけど。今でこそ、就職したいという人が、バンバンくるわけですね。「君は農業したいのか」とか。偉そうに聞いていますけど、「お前は何だ」って話ですよ(笑)。僕はどっちかというとライフスタイルで総合的に選んだところがありますから。

 福島 農業の現場に身を置かれて、その大変さや素晴らしさを実感されたと思うんですけど。
 輕部 自分自身を振り返ってみても、農業に対する知識がなかったり、興味がなかったのですが、それはマズイということが改めて分かりました。情報があまりにも伝わっていない。よくいうんですけど、「瑞穂の国日本」といいながら、米の作り方や、砥ぎ方さえ分からないということも今は珍しくはない。
 それは、やっぱり情報を発信する立場の僕らに問題がある。発信していない。JAとかスーパーも同じです。せいぜい「お米はコシヒカリ。いくらだよ」ぐらいじゃないですか。もっと知ってもらわなくちゃいけないということを強く感じています。
 当社では「コメコミュニケーション精神」をスローガンに、「真の情報交換によって共感と信頼の絆を築き、多くの人々の心豊かな生活に貢献する」ことを目指しています。

 福島 日本の農業で一番の課題は、情報発信にあると。
 輕部 そうですね。でもやっぱり、なんだかんだいって農業は国策なんですよね。国が決めたルールに従わなくてはならない。思い通りにできないことが多いんです。よくも悪くも管理、保護されていることが一番問題だと思います。産業的にきわめて特殊なんですね。

 福島 確かに一般人には分かりにくい産業ではありますね。
 輕部 例えば戸別所得補償制度が始まりましたよね。あれは、僕らにとって、一時的にはプラスもあるんです。減反という3割作っちゃダメというルールを守れば補償金をくれる。そうすると、僕らは予定外収入として利益になる。これだけの面積をやっているとかなり大きな金額になります。では果たしてこれがそのまま続くのかということを考えると、実はあまりいいことでないのかもしれませんよね。
 そもそも3割作っちゃいけないという国の方針も、他の産業ではあり得ないですよね。そこまで口を突っ込んでくるのはどうかなと思うこともあります。
 その意味で、フランスは方針がしっかりしている。農業は国が守ります、とはっきりしている。ただし、ある程度の面積を持った担い手と呼ばれる人だけを守るんです。彼らの利益のほとんどは国の補助金で成り立っていますが、国民もそれを納得している。「国の農業を守り、土地を守るためには仕方がない」と。これは1つの方向性だと思うんです。
 日本はそこが中途半端。自民党の時代は担い手たちを育て守りましょうといっていたのに、民主党になったらすべての農業者を守るという話になった。つまり、農業を自らの仕事と考えている担い手以外の小規模農家も守るために補助金を出すということに変わってしまった。どうしたいのかが見えてこないんです。

予測が難しいTPPの影響

 福島 政策でいえば、TPP(環太平洋経済協定/原則例外を認めない貿易自由化協定)参加が大きな議論になっています。日本の農業は壊滅的な打撃を受けるという声が大きい一方で、新しいビジネスチャンスという農業従事者の声も、少なからず聞こえてきます。輕部社長はTPPが日本の農業に与える影響を、どう予想されていますか?
 輕部 僕もまだ勉強中なんです。ただ、もちろん六星だって無風じゃない。今は加工品が主なので、米相場にあまり影響されず頑張れていますけど、餅米を安い業者から仕入れて作ったら、うちの半額ぐらいでできる可能性もある。そうなると間違いなくその波に飲まれる可能性はあります。
 もっとも、この地域で農業を辞めた兼業農家は、六星に田んぼを預けるケースが多いんですよ。お父さんも体の調子が悪いし辞めますと。「じゃあ六星に貸せばいいよ」とね。
 ですから六星が何とか生き延びられたとしたら、今度は周囲の田んぼが空いてくる。うちはそういうのを請けましょうというスタンスです。みんなが期待していることだし、地域を担うとの思いもありますから。

 福島 TPPが結果として、六星の大規模化につながる可能性もある。
 輕部 今のところは、そうなりたいと思っています。僕ら、田んぼが原資ですし、これを持つことが強みだと思っています。ただTPPのように想定外の環境になってきますと、本当にその理屈が成り立つのか、今は予想が難しいですね。

 福島 日本の農業がグローバルな時代に魅力的な産業になるためには、何が必要ですか?
 輕部 僕は1つに地産地消だと思っています。自分の目で見えるところのものを食べるのが理想だし、そこに僕らの強みもあります。うちの売店の前の畑で育てた野菜を、そこで働いているスタッフの顔を見ながら買う。ここが実は僕らがスーパーに勝てる要素ですし、お客さんもそれを望んでいると思うんです。
 そう考えると、たとえ外国の農産物がフリーで入ってきても、やっぱり近所の六星で買うのではないかと、希望的観測も入れて、そうあるべきだと思っているんですよ。

 福島 TPPがそのきっかけになる可能性もあるわけですね。
 輕部 日本の農業が見直され、構造的にも再構築されて、消費者が安心して国産の食品を食べる時代になれば「TPPがよいきっかけだったね」となると思います。それを密かに望んでいますしね。

柔軟性を維持し農地を守る

 福島 農業は高齢化が進み、若い人が入ってこないことで皆さん悩んでいらっしゃいます。でも六星さんには、全国から就職希望の若者が集まってきています。どうして若い人たちを惹きつけているんですか。
 輕部 何でですかね。多分今は、よくも悪くも農業が取り上げられて、若い人が興味を持っているということがあるでしょう。ところが農業をしようと思っても一般の人は農地を取得できないので、基本的には農業法人に入るしかないわけです。
 といって農業法人で人が雇えるところって、そんなにないんですよ。日本の農業法人の数は約1万1000社ですが、その多くはお父さん、お母さんプラスアルファぐらいの体制です。税金や融資の際の優遇を得るために、便宜的に法人化しているケースもあり、外部から人を雇い入れているのはごく一部ですね。

 福島 数えるほどですか?
 輕部 そう思います。そういう農業法人を見た後に六星にくると、自由に見えるんでしょうね。雰囲気的に。そう思います。

 福島 平均年齢も若いですよね。
 輕部 ええ。同年代のスタッフが楽しそうにやっていて、ある程度の範囲を任されていたりする。サークルとは違いますけれど、ノリとしてはそんな感じもあって、どうせやるならこっちの方が楽しそうということじゃないですか。初めはちょっと勘違いもあるんですよね。

 福島 場所さえあれば農業をやりたい若い人たちは、少なくないということですね。
 輕部 そうです。ところが農業は人を雇える状況にないし、雇っても教育とか、そういうノウハウもない。いまだに「親父の背中を見て覚えろ」という雰囲気ですし。そこも農業が産業的にひと皮むけない原因の1つではありますね。

 福島 六星さんでは人をどうやって育てているのですか。
 輕部 その辺は今でもあまり上手ではないと思うし、常に悩みです。
 ただ、六星の一番の特徴って、ベンチャー的なところだと思うんですよ。創業者の義父もかつては流通業で仕事をしていましたし、僕もそんな感じじゃないですか。入ってくる子らも農家には関係がなく、農業のことをあまり知らない。それで客観的に農業を見て、独自の考えで進めてきたところが歴史としてありますし、社風としてもある。
 個人農家が集まって共同でやり始めた六星は、農業の中でも本当にベンチャー的というか、一風変わったところがあるのかな思うんです。

 福島 チャレンジ精神ですね。最後に今後の抱負をお聞かせください。
 輕部 それがなかなか見えてこない。今後のいろんな環境変化もありますしね。
 ただ常に柔軟性は持っていなければ、というのはあります。例えば自然環境の変化です。気温が2度上がって米が作れなくなった時、どうするか。よく冗談で、バナナを作っているかもしれないといってます。それぐらいの柔軟性が必要です、田んぼを守り続けるためには。米もバナナも、そのための手段ですから。

 福島 農地を守りたいという思いが、とてもお強いんですね。
 輕部 それは、ここまでやってきたら、もう後には引けないところがあるんです。会社として必要とされる意味がないと、存在できないですよね。僕らの存在価値は、やっぱりそこにあると思います。
 (敬称略)

部英俊(かるべ・ひでとし)氏
1967年生まれ。東京都出身。1991年に中央大学法学部政治学科卒業。同年トーヨーサッシ株式会社(現トステム株式会社)に入社し、約7年間勤務。1997年に(有)六星生産組合に就職。入社後、日本の農業の現状や課題を知ると同時にその必要性を痛感。農業の普及・拡大に尽力する。2007年3月の株式会社への改組を機に代表取締役社長に就任した。


 

●インタビュー後記
 農業就業者の高齢化と耕地面積の減少。日本の農業が抱える深刻な問題の1つの解決策を、六星のビジネスモデルは示しているように思えます。就業人口の減少を憂う一方で、農業をやりたくてもできる場がないというのはおかしな話です。活性化には、輕部社長のように、新しい視点を持った異業種からの人材ももっと必要でしょう。
 私たちの命を支える農業は国の基盤でもあります。食にはこれだけこだわる時代なのに、農業への関心が希薄なことは、私たち消費者も反省すべきだと思いました。輕部社長がおっしゃったように、TPPを今後、「農業をどうしていくのか」という国民的な議論を起こすきっかけにすべきだと思います。それは今、クローズアップされている「今後の社会保障をどうするのか」と、勝るとも劣らぬ重要テーマではないでしょうか。